高齢になると、食欲の低下や噛む力・飲み込む力の衰え、体の機能変化などにより、気づかないうちに栄養不足に陥る方が少なくありません。実際、厚生労働省の調査によれば、75歳以上の高齢者の約3割がタンパク質摂取量不足という結果も出ています。
この記事では、高齢のご家族を支える方や介護に携わる方、ご自身の健康に不安を感じているシニアの方々に向けて、以下のポイントをわかりやすく解説します。
- 高齢者が栄養不足になる原因とその背景
- 不足しやすい栄養素とその補い方
- 栄養不足が引き起こすリスク
- 今日から始められる具体的な5つの対策
「最近、体重が減ってきた」「なんとなく元気がない」そんな変化に気づいたら、早めの対処が大切です。健康寿命を延ばす第一歩として、栄養から見直してみましょう。
高齢者が栄養不足になる原因と背景
高齢者が栄養不足に陥りやすいのは、体のさまざまな変化や生活環境の影響が大きく関係しています。主な原因は以下の通りです。
1. 食欲の低下
加齢に伴い、味覚や嗅覚が鈍くなることで食事の楽しみが減少し、食欲が低下します。また、病気や薬の影響で食欲不振になることもあります。
2. 噛む力・飲み込む力の衰え(咀嚼・嚥下障害)
歯の欠損や筋力低下によって、硬いものや繊維質の多い食材を避ける傾向が強くなり、結果的に栄養バランスが崩れやすくなります。嚥下障害がある場合は、誤嚥リスクも高まります。
3. 消化吸収機能の低下
胃酸の分泌減少や腸の運動機能低下により、食べ物から十分な栄養素が吸収されにくくなります。これにより、食事量が十分でも栄養不足になることがあります。
4. 一人暮らしや買い物・調理の困難
高齢者の中には、身体的な制約や社会的孤立から買い物や調理が難しくなり、簡単に済ませられるインスタント食品や菓子パンに頼りがちです。この食生活の偏りも栄養不足を招きます。
5. 社会資源の活用不足
地域包括支援センターや宅配弁当サービスなど、栄養面を支援する社会資源があるにも関わらず、利用が進んでいないケースも多いです。これらを活用することで、食生活の質を維持しやすくなります。
高齢者が不足しやすい栄養素とその補い方
以下は高齢者が特に不足しやすい栄養素と、その役割、代表的な食品例です。
| 栄養素 | 主な働き | 不足すると… | 多く含む食品例 |
|---|---|---|---|
| タンパク質 | 筋肉や免疫機能の維持 | フレイル、免疫低下、体力低下 | 鶏肉、魚、大豆製品、卵 |
| ビタミンD | 骨の健康、免疫力向上 | 骨粗しょう症、転倒リスク増加 | 鮭、干し椎茸、卵黄、イワシ |
| ビタミンB群 | エネルギー代謝、脳神経の維持 | 疲労感、認知機能低下 | 豚肉、レバー、納豆、玄米 |
| 食物繊維 | 腸内環境を整える | 便秘、腸内フローラの乱れ | 野菜、海藻、果物、全粒穀物 |
| 鉄分 | 赤血球の生成 | 貧血、倦怠感 | レバー、ひじき、あさり、ほうれん草 |
栄養素を効果的に補うためのポイント
- タンパク質は毎食に取り入れる
肉や魚、大豆製品を柔らかく調理し、食べやすく工夫しましょう。煮る・蒸す調理法がおすすめです。 - ビタミンDは日光浴と食品で補う
日光を浴びることで体内でビタミンDが生成されます。1日15分程度の散歩を心がけ、食事からも積極的に摂りましょう。 - ビタミンB群はバランスよく摂取
豚肉やレバー、納豆などを取り入れ、エネルギー代謝と神経の健康を支えます。 - 食物繊維で腸内環境を整える
野菜や海藻、果物を毎日摂取し、便秘を防ぎましょう。 - 鉄分は貧血予防に重要
レバーやほうれん草など鉄分豊富な食品を意識的に摂ることが大切です。
栄養不足が引き起こすリスクとは?
高齢者の栄養不足は、健康にさまざまな悪影響を及ぼします。特に注意したいのは、以下のようなリスクです。
1. フレイル(虚弱状態)の進行
栄養不足は筋肉量の減少(サルコペニア)や体力の低下を招き、フレイル状態を引き起こします。フレイルは転倒や骨折のリスクを高め、生活の自立を妨げる大きな要因です。
2. 骨粗しょう症の悪化
カルシウムやビタミンDが不足すると骨密度が低下し、骨折しやすくなります。骨粗しょう症は寝たきりの原因にもなりかねません。
3. 免疫力の低下と感染症リスクの増加
タンパク質やビタミンDが不足すると免疫機能が低下し、風邪や肺炎などの感染症にかかりやすくなります。これが重症化すると入院が必要になる場合もあります。
4. 認知機能の低下
ビタミンB群やその他の栄養素不足は、脳の働きを鈍らせ、認知症のリスクを高める可能性があります。
5. 全身の倦怠感や生活の質(QOL)の低下
栄養不足により疲れやすくなったり、日常生活の活動量が減ることで、生活の質が大きく損なわれます。
「体重が減ってきた」「食欲が落ちている」などの変化は、栄養不足のサインかもしれません。
早期に気づき、適切な対策をとることが健康寿命を延ばすために非常に重要です。
高齢者の栄養不足を防ぐ具体的な5つの対策方法
高齢者の栄養不足を防ぐためには、日々の食事や生活習慣を工夫することが大切です。ここでは具体的に実践しやすい5つの対策を紹介します。
1. 毎日の食事にタンパク質を意識的にプラスする
筋肉や免疫力を支えるタンパク質は、毎食欠かさず摂ることが重要です。鶏肉、魚、卵、大豆製品を中心に、柔らかく煮る、スープにするなど食べやすい調理法を工夫しましょう。
例: 朝食に納豆やゆで卵、昼食に豆腐入り味噌汁、夕食に柔らかく煮た魚料理。
2. 噛みやすく飲み込みやすい調理法を取り入れる
歯のトラブルや嚥下機能の低下がある場合、とろみをつける、刻む、ペースト状にするなど、食べやすさを工夫することで食事量を確保しやすくなります。
3. 栄養補助食品や宅配弁当を活用する
食事だけで十分な栄養が摂れない場合は、高齢者向けの栄養補助ドリンク(メイバランス、エンシュアなど)やゼリーを利用しましょう。また、地域の宅配弁当サービスを活用すれば、バランスの良い食事を手軽に摂取できます。
4. 日光浴と適度な運動を習慣にする
ビタミンDの合成には日光が必要です。毎日15分程度の散歩や軽い体操で身体を動かすことも、筋力維持や食欲促進に役立ちます。
5. 定期的に体重や食事内容をチェックし、地域包括支援センターを活用する
家族や介護者が体重の急激な減少や食事の偏りを見逃さないことが大切です。また、地域包括支援センターに相談すれば、栄養指導や介護サービスの紹介などさまざまなサポートが受けられます。
これらの対策を取り入れ、少しずつ食生活と生活習慣を改善することで、栄養不足を防ぎ、高齢者の健康寿命を延ばすことができます。
よくある質問(FAQ)
Q1. 高齢者の栄養不足はどうやって見分けられますか?
A. 「急に体重が減った」「疲れやすくなった」「肌が乾燥しやすい」などがサインです。定期的に体重や食事内容を確認しましょう。
Q2. 一人暮らしの高齢者におすすめの栄養対策は?
A. 栄養補助食品の活用、宅配弁当の利用、買い物・調理のサポートなどが有効です。
Q3. フレイルを防ぐにはどんな栄養素が大切?
A. 特にタンパク質とビタミンDが重要です。筋力維持と免疫力向上につながります。
高齢者の栄養対策は「予防」の第一歩
高齢者の栄養不足は、病気の原因となるだけでなく、生活の質(QOL)を大きく下げてしまう可能性があります。しかし、毎日の食事を少し工夫するだけで予防できることも多いです。
ご本人だけでなく、家族や介護者が「気づく・支える・補う」ことが、健康寿命を延ばす鍵となります。
まとめ|高齢者の栄養は「日々のちょっとした工夫」がカギ
高齢者にとって栄養は、毎日を元気に過ごすための基本です。もし「最近あまり食べたがらない」「体重が減ってきた」などの変化に気づいたら、早めの対応が大切です。
訪問介護スタッフやご家族ができることは、小さなサインを見逃さず、食事を共にする・好物を取り入れる・調理を一工夫するなど、日常の中で無理なく続けられる工夫を重ねることです。
無理に完璧を目指すのではなく、「できることを少しずつ」が栄養改善の第一歩。関わるすべての人が寄り添うことで、シニアの健康寿命をぐっと伸ばすことができます。




